「障害年金」と「障害者手帳」は、どちらも障害を持つ方の生活を支えるために設けられた公的な制度ですが、それぞれ目的や運用が異なるため、混同されがちです。「障害者手帳を持っていれば障害年金がもらえる」「障害年金を受け取っているから障害者手帳も持っているはず」といった誤解も多く見受けられます。
この記事では、障害年金と障害者手帳の制度の違いを社会保険労務士の視点から詳しく解説し、どのような支援を受けるためにそれぞれの制度があるのか、また申請のタイミングや注意すべきポイントについてもご案内します。
障害年金とは?
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事に大きな制限を受けた方に対し、経済的な支援を行う年金制度です。公的年金制度の一部であり、国民年金と厚生年金に分かれています。
対象となる方
- 原則として、障害の原因となった病気やけがの初診日が年金加入期間中であること
- 初診日の前日時点で保険料の納付要件を満たしていること
- 障害認定日に障害等級に該当する状態であること
支給の基準
障害年金は、以下の等級で判定されます。
- 1級:日常生活のすべてにおいて常時援助が必要な状態
- 2級:日常生活に著しい制限がある状態
- 3級(厚生年金のみ):労働に著しい制限がある状態
等級の判断は、医師の診断書や本人が記載する生活状況報告書(病歴・就労状況等申立書)などをもとに、日本年金機構が審査を行います。
支給内容
支給金額は、障害の等級と年金制度の種類によって異なります。国民年金からは「障害基礎年金」が、厚生年金からは「障害厚生年金」が支給され、1級・2級(基礎年金)、1級・2級・3級(厚生年金)が対象となります。
障害者手帳とは?
障害者手帳とは、障害のある方に対して、各種の福祉サービスや割引制度などの支援を受けるために交付される証明書です。障害の種類によって3つの手帳が存在します。
障害者手帳の種類
- 身体障害者手帳(身体的な障害が対象)
- 精神障害者保健福祉手帳(精神疾患が対象)
- 療育手帳(知的障害が対象)
それぞれ自治体の福祉担当課が申請の窓口となり、医師の診断書や意見書などをもとに認定が行われます。
手帳の等級
- 身体障害者手帳:1級~6級(1級が最重度)
- 精神障害者保健福祉手帳:1級~3級
- 療育手帳:自治体によってA・Bまたは1度~4度など異なる分類
等級の判定は、障害の種類や程度、医療機関の診断などをもとに行われますが、年金のように生活の支障度合いを中心とした判定とは少し異なります。
受けられる支援
- 公共交通機関の運賃割引
- 税制上の控除(障害者控除など)
- 所得に応じた医療費助成や自治体独自の給付金
- 雇用支援(障害者雇用枠の利用など)
- 自動車税やNHK受信料の減免 など
福祉サービスの内容や受けられる範囲は、お住まいの自治体によって異なる場合があります。
障害年金と障害者手帳の違い
両制度は同じ「障害」を扱うものであるにもかかわらず、役割や審査基準、窓口などが異なるため、混乱しやすい部分でもあります。主な違いを以下にまとめます。
項目 | 障害年金 | 障害者手帳 |
---|---|---|
主な目的 | 経済的支援(年金の支給) | 福祉サービスの利用、社会参加の支援 |
管轄機関 | 日本年金機構 | 各自治体の福祉部門 |
判断基準 | 日常生活や就労への影響、生活能力の程度 | 障害そのものの医学的な程度 |
審査方法 | 医師の診断書+生活状況等の書類による審査 | 医師の診断書・意見書による審査 |
支給・交付の内容 | 年金(月額支給) | 各種割引、助成、優遇制度へのアクセス |
等級制度 | 1級~3級(厚生年金)/1級・2級(基礎年金) | 種類により異なる(1級~6級など) |
有効期限 | 原則2年ごとに更新(医師の診断書が必要) | 精神・療育手帳は期限あり、身体は原則無期限 |
よくある誤解とその解消
「手帳があれば障害年金も受けられる?」
これはよくある誤解の一つです。手帳の有無と障害年金の支給は直接の関係がありません。障害者手帳は福祉の枠組みで認定されるものであり、障害年金は年金制度上の要件(初診日、保険料納付要件、障害認定日など)を満たしているかどうかで判断されます。
たとえば、身体障害者手帳で3級に認定されていても、障害年金では障害の程度が基準を満たさず支給されないこともあります。逆に、障害年金を受けている方でも、手帳の申請をしていないケースも少なくありません。
「どちらを先に申請すればよいの?」
手帳と年金は、それぞれの制度に基づいて独立しているため、どちらを先に申請しても問題はありません。ただし、障害年金の診断書と障害者手帳の意見書は記載項目が異なるため、1つの診断書で兼ねることはできません。どちらも申請する場合は、医師に両方の書式で依頼する必要があります。
「更新手続きのタイミングが違う?」
障害年金は原則2年ごとの更新(診断書の再提出)が必要です。一方で、障害者手帳は身体の場合は多くが無期限で、精神・知的障害については更新期限が設けられていることが一般的です(多くは2年〜5年)。それぞれの期限を把握し、スケジュールを管理することが大切です。
両方申請するメリット
障害年金と障害者手帳は目的が異なるため、併用することでより充実した支援を受けられる可能性があります。
- 障害年金によって収入面での支援を受けながら
- 障害者手帳によって生活費軽減や就労支援を受ける
特に障害年金を受給している方は、各種控除や医療費の助成、福祉サービスの利用などを通じて、生活の幅が広がる場合があります。
まとめ
障害年金と障害者手帳は、どちらも障害を抱える方々を支援する重要な制度ですが、それぞれの制度が目指す支援の内容、認定基準、管理機関が異なります。両制度を正しく理解し、自身の生活状況や支援ニーズに応じて活用することで、より安定した生活の実現につながります。
どちらか一方のみを申請して終わりにせず、両方の制度を検討し、必要に応じて相談窓口や専門家(社会保険労務士、福祉職員など)に相談することが、より安心できる支援体制を整える一歩になるでしょう。障害に関わる制度は複雑に見えるかもしれませんが、正しい知識とサポートを得ながら進めていくことで、自分に合った制度の活用が可能になります。
障害年金に関する相談はどこにする?おすすめの相談先も紹介!
障害年金に関する相談先は、一般的には、障害年金相談センターや市区町村役場の社会福祉課などがあります。これらの相談先では、障害年金に関する手続きや受給資格などについて詳しく教えてくれるだけでなく、具体的な申請方法や書類の提出方法なども教えてくれます。ここでは、おすすめの相談先を5つほどご紹介いたします。