障害年金は、病気やけがにより日常生活や仕事に支障がある方にとって、大きな支えとなる制度です。しかし、実際に申請を行った方の中には、「申請したけど認定されなかった」「どうしても通らない」という悩みを抱えている方も少なくありません。制度を正しく理解し、審査においてどのような点が判断基準となるのかを知ることは、適切な申請を進めるうえで欠かせません。
本記事では、障害年金の申請が通らない主な理由と、その対策について社会保険労務士の視点から詳しく解説します。申請をこれから検討している方、あるいは過去に申請してうまくいかなかった方の参考になれば幸いです。
障害年金の審査で重視されるポイント
障害年金の審査では、単に病名や医師の診断だけで判断されるわけではありません。審査機関が重視するのは、以下の3つの要素です。
- 初診日が適正であり、証明できていること
- 障害認定日における障害の程度が制度の基準に達していること
- 保険料納付要件を満たしていること
これらのいずれかに不備があると、申請内容が通らない原因となる可能性があります。
審査で通らない主な理由とその背景
1. 初診日が特定できない、証明できない
障害年金の申請では「初診日」が非常に重要です。これは障害の原因となる病気やけがについて、初めて医師の診察を受けた日を指します。この初診日をもとに、加入していた年金制度や保険料納付の状況が判断されます。
しかし、初診日を証明する診療録(カルテ)や診察券などがない場合、書類上での証明ができず、審査が進められなくなることがあります。特に、古い病歴や転院を繰り返しているケースでは、証明が困難になることがあります。
対策
- 初診となる医療機関にカルテが残っているか確認する
- 証明が難しい場合は、転院先の紹介状や第三者証明(家族、職場の上司などの証言書)を用意する
- 健康保険の診療履歴を取得して参考にする
2. 障害認定日の診断書が不十分
障害認定日は、原則として初診日から1年6か月が経過した日です。この時点での障害の状態が、制度上の等級(1級・2級・3級)に該当していなければなりません。ここで提出する診断書の内容が、障害の実態を的確に反映していないと、審査において対象外と判断されることがあります。
たとえば、「症状は落ち着いている」「特に問題ない」といった記載がある場合、実際には日常生活に支障があっても、等級に該当しないと判断されることがあります。
対策
- 主治医に診断書を依頼する際、障害年金の目的であることを伝える
- 生活の困難さ、通院の頻度、職場での配慮内容などを事前に整理して、医師に伝える
- 診断書に記載される内容を事前に確認し、不明点があれば相談する
3. 病歴・就労状況等申立書が不十分
この書類は、申請者がどのような病歴をたどってきたか、障害が日常生活や就労にどう影響しているかを説明する重要な資料です。ところが、「調子が悪い」「生活に支障がある」など、抽象的な表現ばかりだと、審査員が実情を理解できない可能性があります。
対策
- 症状の経過を時系列で正確に記載する
- 日常生活の具体的な困難(例:1人で買い物に行けない、服の着脱に時間がかかる)を詳細に書く
- 通勤・通学・家事・人間関係などの具体的なエピソードを交えて記載する
4. 保険料納付要件を満たしていない
障害年金の受給には、初診日の前日時点で一定の保険料納付状況を満たしている必要があります。未納期間が多かったり、直近1年間に未納があると、障害の程度に関係なく、制度上の要件を満たさないと判断されます。
対策
- 日本年金機構で納付記録を確認し、不足があれば追納の検討をする
- 学生納付特例や免除申請をしていた場合は、申請の履歴を保管しておく
- 特例措置(例えば1年ルール)などが該当しないか、年金事務所や社労士に確認する
5. 提出期限を過ぎてしまっている
障害年金の請求は、原則として請求した月の翌月分から支給が開始されます。また、過去にさかのぼって支給を求める「遡及請求」には時効があります。遅れて手続きを行ったことで、本来受けられた年金の一部が時効により請求できなくなる場合があります。
対策
- 初診日から1年6か月が経過したタイミングで早めに準備を始める
- 遡及を希望する場合は、障害認定日当時の診断書が入手できるかを早期に確認する
- 書類が揃わないときでも、まずは年金事務所に相談する
審査結果に不服がある場合の対応方法
もし申請しても支給が認められなかった場合には、結果通知後60日以内であれば「審査請求」を行うことができます。さらに、不服がある場合には「再審査請求」も可能です。これらの請求には専門的な知識が必要となることも多く、必要に応じて社会保険労務士などに相談することが効果的です。
専門家を活用するという選択肢
障害年金の申請には、医学的な理解だけでなく、制度的な要件や書類作成の正確さも求められます。複雑なケースや過去に申請を見送った方、審査が通らなかった方の場合、社会保険労務士などの専門家に相談することで、状況の整理や書類作成のサポートを受けることができます。
まとめ
障害年金の審査では、申請者の状況を制度の基準に照らして評価されます。その過程で、初診日、診断書、生活状況の証明、保険料の納付状況など、さまざまな要素が判断材料となります。審査が通らなかった背景には、何かしらの見落としや準備不足がある場合も少なくありません。
焦らずに一つひとつのポイントを確認し、必要な証明や説明を丁寧に整えていくことが、適切な申請に近づく第一歩となります。不安な点があれば、専門機関や社会保険労務士の力を借りながら進めていくことで、より円滑に手続きを進めることができるでしょう。障害年金は、生活の安定を支える制度です。しっかりと理解し、自分の状況に合った制度の利用を目指していきましょう。
障害年金に関する相談はどこにする?おすすめの相談先も紹介!
障害年金に関する相談先は、一般的には、障害年金相談センターや市区町村役場の社会福祉課などがあります。これらの相談先では、障害年金に関する手続きや受給資格などについて詳しく教えてくれるだけでなく、具体的な申請方法や書類の提出方法なども教えてくれます。ここでは、おすすめの相談先を5つほどご紹介いたします。