障害年金は、病気やけがによって生活や就労に支障をきたしている方が、安定した生活を送るための支援として位置付けられている制度です。しかし、障害年金を受け取っている方の中には、「仕事をしたら障害年金が止まるのではないか」「収入があると不利になるのではないか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
実際のところ、障害年金と就労は必ずしも相反するものではなく、一定の条件を満たしていれば働くことが可能です。むしろ、就労を通じて生活の幅を広げたり、社会的な役割を果たすことは、心身の安定にもつながることがあります。
この記事では、障害年金を受けながら働くことについての基本的な考え方、収入や労働時間が年金に与える影響、そして注意すべきポイントについて、社会保険労務士の立場から詳しく解説します。
働きながら障害年金を受給することはできるのか?
結論として、障害年金を受給しながら働くことは可能です。障害年金は、「障害の程度」によって支給の可否が判断されるため、働いているという事実だけで年金が止まることはありません。
ただし、働き方や仕事内容、収入の状況によっては、障害の程度が軽減されたとみなされ、次回の更新時に支給が停止されたり、等級が変更されることがあります。つまり、就労が年金の支給に直接影響するのではなく、「現在の障害状態が、制度の基準を満たしているかどうか」がポイントになります。
障害年金の制度における就労の位置づけ
障害年金の審査においては、診断書の記載内容や「病歴・就労状況等申立書」に記載された生活状況、そして医師の見解などをもとに、日常生活や労働能力への影響が評価されます。
就労しているかどうかは、以下のような点から間接的に評価されることがあります。
- 勤務時間(フルタイムかパートか)
- 仕事内容(軽作業か、集中力や体力を要するか)
- 勤務環境(配慮がされているか)
- 就労に支障があるか(欠勤の多さ、体調不良での早退など)
- 通院や服薬の状況、就労による生活リズムへの影響
これらはあくまで参考資料として扱われるものであり、就労しているからといって、直ちに障害年金の支給対象外になるわけではありません。
就労と等級との関係
障害年金には等級(1級~3級)があり、それぞれの基準に応じて支給の有無や金額が決まります。等級は「どの程度、日常生活や労働に制限があるか」によって判断されるため、就労が可能であることが一定の改善の証と見なされる場合もあります。
たとえば:
- 1級・2級(障害基礎年金、障害厚生年金)
日常生活に常に支援が必要な状態や、著しい制限がある場合。就労は限定的であることが多いですが、在宅就労や短時間勤務など、障害の程度に応じた働き方であれば、認定の対象となることもあります。 - 3級(障害厚生年金のみ)
日常生活においての支障は軽度で、主に労働能力に一定の制限がある場合。就労している方も多く、勤務時間や内容によっては、年金が継続して支給されることがあります。
働いていても障害年金を受け取っている事例
障害年金を受給しながら働いている方の中には、次のようなケースがあります。
- 統合失調症で日常生活に波があるものの、短時間の事務作業で週2〜3日勤務している
- 発達障害があるが、企業の障害者雇用枠で通勤や業務に配慮を受けている
- 腎疾患で人工透析を受けているため、透析日以外にパート勤務をしている
- 下肢の障害により移動制限があるが、在宅勤務で業務ができている
このように、障害の程度や職場の配慮があることにより、働きながら年金を受給している方も一定数存在します。
収入の制限はあるのか?
障害年金の制度自体には、「いくら以上収入があると支給されない」といった明確な収入制限はありません。収入額の大小ではなく、障害の状態に基づいて支給が判断されます。
ただし、収入が多いことによって、以下のような影響が生じる場合があります。
1. 次回更新時に障害の程度が軽減されたと判断される可能性
高収入・フルタイム勤務の場合、仕事に支障がないと見なされることがあります。審査では「働ける=障害が軽い」とは限らないものの、医師の診断や申立書の内容との整合性が問われることになります。
2. 各種福祉制度や手当との関係
障害年金そのものには所得制限はありませんが、「特別障害者手当」など他の手当と併用する場合、世帯の収入によっては支給が打ち切られることがあります。
3. 税制上の扱い
障害年金自体は非課税ですが、就労により得た給与収入が一定額を超えると所得税や住民税の課税対象となります。各種控除の申請や扶養の範囲にも影響します。
障害年金と就労を両立する際の注意点
1. 更新手続きに備える
障害年金は、多くの場合2年ごとの「更新審査」があります。就労状況も審査の材料になるため、働いていることを診断書に正しく反映してもらうことが重要です。診断書の記載内容が実情と大きく異なる場合、審査結果に影響する可能性があります。
2. 医師との情報共有
主治医に就労していることや、働くことで体調にどのような変化があるかをしっかり伝えることで、正確な診断書の作成につながります。「働けているから元気だと思われるのでは」という不安がある場合でも、無理している実情や制限が必要な点をきちんと説明しましょう。
3. 配慮のある職場を選ぶ
障害の状態に応じた就労環境の選択は非常に大切です。障害者雇用枠での勤務や、合理的配慮がある企業、就労移行支援などを活用することで、体調や生活リズムに合わせた働き方が実現しやすくなります。
まとめ
障害年金は、「働けるかどうか」ではなく、「障害の程度」が支給の基準となる制度です。そのため、障害年金を受けながら働くことは十分に可能です。ただし、働き方や収入の状況によっては、障害の程度が軽減したと見なされることもあるため、注意深く就労を選択する必要があります。
働きたいという気持ちを持ちながらも、無理をしないこと、自分の障害の状態に合った環境を整えることが大切です。制度の仕組みを理解しながら、社会とのつながりを保ち、自分らしい生活を築いていきましょう。
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